絵本会のエンターティナー。こう呼ばせていただきます。
なにしろ、作家先生でありながら
「ひらきよみ」(「読み聞かせ」のことです)は何冊もしてくださるし
スライドを使って、創作過程の様子を見せてくれ、それから絵本の裏話までも披露してくれました。
落語絵本を描いているのがうなずけるほど、話上手。
前から2列目の私は、川端さんの眉毛の動きまで堪能させていただきました。
今日の講演会は、先に「田島征三さん」。
その後、席を並び替えて川端さんでした。
後からの説明で、「ひらきよみ」を実演なさるための席の並び替えでした。
細部までこだわるのは、プロの心意気なんでしょう。
田島さんとの不思議な縁の話は、みなさんびっくりでした。
川端さんが若いころ、ある出版社の主催で「絵本画家創作講座・田島征三コース」というのを受講。
例によって(笑)遅れて来た田島さんがおわびにとみんなを喫茶店を連れて行ってくれたそう。
その時、生徒の中で男一人だった川端さんに話しかけて来た田島さん。
「君、出身どこ?」
「新潟の高田です。」
「うちの親父も高田にいたんだ。」
と、よくよく話すと、新潟大学に単身赴任なさっていた田島さんのお父様が
川端さんの小学校の校長先生を兼任なさっていたそうです。
「本人に会う16年も前にお父さんに会っていた。」
自分に必要な人間関係は知らないところで操作されているような、
たぐりよせているような…
とにかく不思議な話でした。
川端さんの話をうかがっていると、とても読者を身近に感じ、
大事にしてくださっているのがよく分かります。
サイン会で、ボロボロになった本を、もってきてくださった読者との出会いが感動的でした。
「買われた先でその人の本になる。作ったら作った分、買われた先でその人の本になる」
「読者というのは体現的な表現者なんだ。」
アシのでた講演会だったけれど、これが分かったのだから無駄ではなかったと思ったそうです。
ご自分のことを「絵本商人」と笑いながらおっしゃっていましたが、あながち、まちがってはいないと思いました。
自分の絵本を買っていただいたお客さんを大事にする、そんな感覚でしょうか。
ご実家が商売をなさっていたとも言われていましたっけ。
先生と言われるのを嫌ったり、「読み聞かせ」という言葉をも失礼に思い「ひらきよみ」と言ったりするところからも
読者と言葉を大事にしているのが、ほんとうによく分かります。
お客様をいかに楽しませるかが、伝わってきます。
「ひらきよみ」5~6冊は読んでいただいたでしょうか。
子どもに読むことはあっても、読んでもらう機会はなかなかない私には、楽しい体験でした。
それから、スライドで版画作品(十二支のおせち料理)の創作過程をほんとうにこと細かく見せていただきました。
「トレーシングぺーぺーに清書して、裏側にコピーしてカーボン紙にはさんで9Hという硬い鉛筆でなぞる」
とか、
「手前から奥に、少し右に倒しながらカッターを入れる。」
専門家じゃなくても絵本が出来上がっていく過程をみるのは楽しい。
そして、あいだあいだに、川端さんが絵本で遊んでいるところを教えてくれる。
「掛け軸の字は横山大観の字」とか
「僕は辰年なので、辰の着物の図柄は一番頑張った」(笑)とか。
版画の絵本というのは、恐ろしいほどの手間。
34枚中の1枚目の話「開始15分。……完全に飽きています。」(大爆笑)
包み隠さず、たいへんさを伝えてくるので、見ている私たちもつらさを共有している気分になってきます。
「でも、こんな時ですね。読者の声が聞こえてくるのは。」(笑)
笑いを取りながらも、プロとしての心意気を感じる言葉に感動しました。
「始めれば終わる。始めなければ絶対に終わらない。
手間をはぶけば、いい加減なものになる。
自分が納得いかないものになる。
そのごまかし方に慣れてしまうと、いつも手間をはぶいてしまう。
でも、始めれば絶対終わる。
思った通りのことをやればちゃんと出来上がる。」
講演会が終わった後の我が家では、この言葉がブーム。
何か大変なことをやらなければならない時。
「始めれば終わる。始めなければ絶対に終わらない。」
ふか~イです。
笑いの中にとても大事な事をおっしゃるのです。
「立ち居振る舞いこそが次世代に伝わる。
けっして言葉ではない。演じている価値観が伝わるのです。」
大人しっかりしなきゃ、と笑いながらも心に響く言葉のなげかけに
居住まいを正す私でした。
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