椎名 誠

絵本たんけん隊
 1994年東京都生まれ。1979年より、小説、エッセイ、ルポ等の作家活動に入る。
主な作品に、「犬の系譜」「岳(ガク)物語」「アド・バード」「中国の鳥人」「黄金時代」「ただのナマズと思うなよ」「メコン・黄金水道をゆく」などがある。
 最新刊は、「にっぽん・海風魚旅 大漁旗ぶるぶる乱風編」。旅の本も多く、パタゴニア、シベリア、メコン、アマゾンなどへの探検、冒険ものを著している。趣味は、焚火キャンプ。
「静岡県読書推進フォーラム2005年8月23日より
10日前、テレビ番組の長期ロケで、なんと「北極」にいたそうです。

椎名さんのお顔とお声は、もちろん知ってます。

ただ、ほんとにお会いするのは今日が初めて。期待に、胸おどります。

椎名さん登場です。

探検隊長らしく日焼けなさって、いくつになっても精悍な青年って感じの方です。

あ~、この声、この声でした。

椎名さんの今見てきた北極の話に、それこそ本好きのみなさんの想像力が一斉に反応したせいか会場が急に涼しく感じられました。


北極


椎名さんはまぼろしの動物と言われている「イッカククジラ」を追っての北極入りだったそうです。

我が家には、「クジラ・イルカ大図鑑」という大きな重たい本があります。

講演会から帰ってきてから、よ~く見てみました。

独身のころに私が買った古い本なのですが、今日ほどじっくり見た事は今まで無かったです。

椎名さんが言ってらした通りユニコーンのモデルなんでしょう。不思議なクジラでした。

体長の三分の一はある螺旋状の牙を持っているのです。

カナダのバフィン島という、有人では最北端の島の人口500人ほどのイヌイットの村に1ヶ月半滞在して、1週間氷の海の上にいて本物を見てきたそうです。

氷に退路を閉ざされる話など、やはり危険なんだなと思うのですが、結構淡々と話されます。

でも、その時シャクルトン船長のことを思い出したとか、その船、エンデュアランス号が流氷でバラバラにされ2年がかりで乗組員全員生還したのは、とてもスゴイことなんて話しているのを聞くと、椎名さんも、その時は死を感じたんでしょうね。

イヌイットの強さ

「死にゃーしない。獲物は回りにいる」

それから、イヌイットのアザラシの食し方の説明に入ります。

80kg~90kgのアザラシを撲殺し、すぐお腹をさきます。

6~8センチの脂肪の下には、小指ぐらいの寄生虫。

「動くサプリメント」だそうです。

胃の中身は食べないけれど、腸の中身は食べる。

中学生ぐらいの女の子がよく食べる。

2本のうちの1本をたまたまそばにいた(いてしまった?)椎名さんにくれたそうです。

食べないわけにはいかず、ズズーッと吸うと…タラ風味の塩からだったそうです。

ここにビールがあればと笑いをとっていましたが、スゴイ経験です。

エスキモーとイヌイット

エスキモーとイヌイットってどうちがうのか知らなかったのですが、エスキモーというのはアラスカ圏にいる人たちのことで、イヌイットというのはカナダ圏に住んでいる人たちのことなんだそうです。

で、カナダ政府がエスキモーというのは差別用語でNGと決めたそうなのですが椎名さんが取材すると本人たちは、むしろエスキモーという言葉に誇りを持っているので何でかってに変えるんだと怒っているとか。

本来、エスキモーとは「生肉を食べる人」という意味が有り、そのことに誇りをもっているそうです。

椎名さんはこう続けます。

「文化文明は一律なものではない。環境が人の価値観をつくり、社会の規範をつくる。個人の方向をきめる。これは全世界共通のこと。」

世界各国を旅している椎名さんの言葉ですからこそ、真理をついていると思います。

その後も狩猟民族の底力を感じさせるはなしが続きます。

旅と本

「状況、環境で価値がちがう。日本は文明国家なのでどこかで、価値の基準を作ってやらないと社会はめちゃくちゃになってしまうが、何故?と思わないのは不思議だ。」

自分は、「旅」 が学校だった。

旅に出るとモノを考える原因と出会う。

自宅まで持って帰ってきて本で調べる。

そしてまた旅へ。

これが自分の人生だった。

いつからこんなだったのかと考えたら、小学校の時からであった。

本の話

スウェン・ヘディンの「さまよえる湖」を読み

子どもながらに、いつか大人になったら行こうと夢を抱いていたのだそうです。

この本は椎名さんにとって人生の分岐点におかれていた本のようでした。

この本がきっかけで探検好きになっているし、

この本のしおりには赤い糸が使われていたようで奥様にも出会います。

人はどんな本を読むか。あとから考えると神の意図を感じます。

椎名さんは小説、ミステリーはあまり好きじゃない。

どうせ、うそならSF。

好きなのは、ノンフィクション。

自然科学。それからその中間の哲学のあたり。

紹介した本はエドワール・ホールの「かくれた次元」。

30年前に出されたモノの考え方の本だそうです。

海辺にいくと堤防にカモメが等間隔で並んでいる。

なぜか?

個体には『最大友好至近距離』と『最大敵対距離』がある。

これ以上すすんでくると許さないよという距離のことだそうです。

笑ったのが同じ疑問を主人とよく話すのです。

6日前も家族で出掛けた夕方、またもや等間隔に並ぶ鳥を見て、このなぞについて話していました。

「羽があたるのがいやなんじゃないか。」と主人、「気持ちわるいのよ、あんまり近づくと。」と私。

人間行動学とか心理学につながる話だとは気付かないのが凡人だなとは思いましたが…

個体によって違う。人間は2,5メートルだそうですが、これまた民族によってもちがう。

アラブの人の親しみを感じる距離は50cm。西洋人がもっとも嫌う距離なんだそうです。

「国家というのはイデオロギー、経済力、人種、宗教、総合して国のつきあい方を考えなければいけない。」

そういうモノの考え方、咀嚼する力をつける本を何時間もかけて読みなさいとおっしゃていました。

世界を見てきた椎名さんの考え方は、見てきただけではなく、帰ってきて本を読み考え、また旅をし、帰ってきて本を読み、考えたからこそグローバルなんだということを学ばさせていただきました。

「本の力、本の夢」

演題をかみしめたのは、自宅に帰ってきて随分たってからでした。


おまけ

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