脇明子


読む力は生きる力


不思議の国のアリス

脇明子講演会  2005年11月05日より

「読む力は生きる力」

私の誕生日の日、我が家のポストに「脇明子さん講演会」の入場整理券。
その日、私が取りに行けないことを知った友人からの誕生日プレゼントでした。
それがなければ、今日この場所に私がいることはありませんでした。
聞けば、やはり人気の脇さん、整理券はあっという間に無くなったそうです。

そのように手にした聴講権利ですので、今日のお話を記すことは余計に、とても大事なことのような気がしています。
今日、講演会に入場できなかった方、お子さんをお持ちの親御さん、
そして学校で子どもたちと向かいあっている現場の先生にこのレポートを贈ります。

1時間半前に、今日の会場である磐田中央図書館に着きました。
初めて訪れたということもあって、開場までの時間はあっという間でした。
それに、脇明子さんが、この図書館を視察なさっているのも、すぐ横で拝見できました。
本を読んでお姿を想像し、お姿を拝見し、今度はお声を想像するのも楽しみなものです。

いよいよ講演会始まりです。「えっ?」
もっと、高い声を想像していました。
でもしばらくするとやはり、
脇さんの知性にはやはりこのお声と、納得してしまう少し低めの落ち着いたお声でした。


よどみなく話されることは、とても興味深いことばかりでした。
直接は小さい子どもたちとは関わってはいないと言われるのですが、大学の20何年間は、
「自分の子ども時代を記憶している子たち」との場であり、脇さんの思索する場としてはとても良かったようです。
大学生と接して「読まない人たちの理屈」が分かるようにもなり、
大学院に進む教え子たちとの共同研究で「どのようにして子どもは本離れしていくのか、何故、本離れしていくのか」
ということまで、かなりリアルに分かるようになったと言われます。
そして、平行して取り組んでこられたのは「子どもとメディアの問題」。
2000年「こども読書年」に導入されたブックスタート。
支持なさらない方たちの「ブックスタートが読書につながらない。」という意見もわかったそうなのですが
それどころじゃない問題が子どもたちに起こっている。その関係でメディア問題の深刻さも見えてきた。
文学は放っても、こちらの方に力を入れざるを得ないなとまで思わせたそうです。
「本離れどころの問題じゃない!」
これには、私も膝を乗り出して聞いてしまいました。
講演会の受付で配られた、「『子どもとメディア』の問題に対する提言」という印刷物に目をおとします。
これは、小児科の先生が出された提言なんだそうですが、まだ知られていないようなので、脇さん、ことある事に配られているそうです。
そのような先生とコンタクトをとり勉強するうちに、「子どもとメディア問題」と「読書」の問題は深く関係があるということ気づきます。
そして、大学院生の「子どもと言葉の発達」という論文を手伝ううちに、学生の学ぶ発達心理学、医学、「認知考古学」(昔の人類がどんな風に物を考えるか)など、知らぬうちに脇さんも、学ばれていかれたようです。
チンパンージーはいくら頑張っても、言語は操れない。何故かということが、発掘された骨や遺物から推論できるようになってきた。
それを引っ張りよせてくると、知性とは何か、問題解決能力とは何かということが客観的に説明できるようになったのだそうです。
そして、メディアは何故悪いのか、本は何故いいのかと続いていきます。
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読書することで
・想像力・思考力・メタ認知能力を育むことができます。
=この3つの力をつけることによって「メディア・リテラシー」(メディアを使いこなす能力)を身につけることができる=

「メタ認知能力」とは?
一段高い位置から自分の考えをみる能力。
(主人公に同化し、その同化した自分を見ることができるということでしょうか?
自己モニターともおっしゃっていました。)
自分の心の中にあることを解釈する。
脳の前頭葉、前頭前野を使うのだが、メディアを見ると働かない。
この能力がないと、いつまでも大人になれない、その背後にはメディア。
10歳前後、急速に伸びる。
・やりながらプランの修正ができる
・高度な判断ができるようになる。

『ロージーのおさんぽ』
『アンガスとアヒル』
『くまのテディロビンソン』
これらの本が楽しめるということは、このメタ認知能力が育っているということらしい。

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それから、「絵本」や「読み聞かせ」への危惧は、著書でも言われていたのですが
やはり、直接お話をうかがうと、ズンときます。
- 多彩な絵本が世の中にあふれ、「子どもには絵本を読み聞かせるべきだ」という考えが広く行きわたるようになってきたのは、とてもすばらしいことではあるものの、じつは手放しで喜んでばかりもいられないことがわかってきた。 -
絵本世代の子を持つ、私をも含む母親は、なんの疑いもなく、この読み聞かせはいいことで、読書へと続くと思っています。
脇さんは言われます。
今、世の風潮は「絵本」に偏りすぎていると。そこから、読書にはいかないと。ご自分の教え子を見ての発言なのです。
絵本から意識的にもっていくことを考えねばならないようです。
それこそ厳選した絵に、読んでくれる人。まさにこれは映像!!
絵を見ていれば満足ではいけないのです。
本というのは、想像力がうまくイメージにならないと楽しめない。子どもの想像力、イメージが動くところまで手伝う。
物語は想像力を働かせなければ読めないからこそ大事。
歯ごたえのある物を食べないとアゴが育たないのと同じで、読みごたえがなければ思考力は育たない。
素晴らしすぎる絵は要注意なんだそうです。
絵を見ると分かった気になってしまう。
いい絵の本は、先ず、本を閉じる。そしてもう一度物語を読んでみる。
物語が、ステキだからと本を選んでください。
子どもの本とは、物語が強い本、だそうです。
絵描きさんは「控えめに」だそうです。

心情の理解できない事件の多いこの頃、
子どもへ、絵本から物語の橋渡しを担うのは母であり、子どもの近くにいる大人たちです。
脇さんの講演会でうかがった話には、読書の大事さを語る背後にメディアの影が見え隠れしていました。
親ばかりでなく学校も行政も、真剣にこの問題に向き合う時期にきているのを今日は感じました。

岩波の若槻さんや斉藤惇夫さんが、本の題「読む力は生きる力」を考えてくださったそうなんですが、「生きる力」という言葉を入れてもらってほんとうに良かったといわれていたのが印象的でした。
今日の演題にもなっているのですが、まさに脇さんが言わんとするキイワードです。
何があっても、「生きていける力」ということですね。
そして、脇さんの基本的なスタンスは、先ず、子どもありき!です。
「子どもがちゃんと育つこと」このことがなにより大事。
それから、「本が、読書がどう役に立つか、立たせるか」なんです。
子ども自身が自分にとっても、回りの人たちや環境全体にとっても、実り豊かな人生を送れるようになること。
本当の意味での「生きる力」をつけること。

子どもの将来を、真剣に考えた2時間の講演でした。

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