藤本朝巳    


昔話と昔話絵本の世界


こびととくつや

藤本朝巳講演会  2005年11月26日より

上品な佇まいといい、ソフトな語り口といい、さすがフェリス女学院大学の先生という感じでした。
竜洋なぎの木会館での講演は、今日で3回目だそうです。
前1回目は「絵本」について、2回目は「昔話」について、そして今回「子どもと楽しむ昔話と絵本」。
まとめの講演会だったようで、お得感がありました。

いろいろな先生方が危惧なっさているように藤本先生も、今の子どもたちの本離れを
ご自分の文学部の学生を通じて感じているご様子でした。
学習能力はあるのに、メディアのため、話す力、聞く力、読む力、書く力が劣りコミュニケーションが下手になってきている。
言葉足らず、舌足らずになってきている。
それがそのまま、低年齢化してきている。
「本離れ」は幼い時の読書体験による、とか幼い時は親が影響するものだとかのお話に
小・中学生のお子さんをお持ちのお母さん方が多い講演会でしたので、みなさん真剣にお聞きになっていました。

「むかしばなし」聞いて育ちましたか?突然のご質問です。
手を上げたのは、会場で10人ぐらいでしょうか?
藤本先生は、テレビもゲームもアニメもない熊本の山奥で、
おばあさんやお母さんに昔話を聞かせてもらって育ったとおっしゃっていました。
そこで、「聴く」ことを、自然と身につけた。
今の子は聞かされてもイメージが創れない。
そういう子が増えてきている。
「おじいさんが山へしばかりに…」(芝刈り機の連想)
「おばあさんが川へせんたくに…」(川のそばで洗濯機を使っているイメージ)
文化そのものが変わってきていることもある。
と言うところで「やまなしもぎ」の読み聞かせを藤本先生自らやってくださいました。
「映像を心に!」
私は、この絵本の太田大八さんの絵を知っているためにこの読み聞かせ中は、その絵しか思い浮かばず、
自分の本当のイメージはどうだったんだろうと思ってしまいました。
「語り」でイメージするものは自分のものですが、絵の記憶が強いと自分のイメージはわかないものですね。
絵が素晴らしいだけに否定できないけれども「語り」とは?「絵本」とは?と考えさせられました。

「むかしばなし」は何百年も語り伝えられ、聞いてわかるような文体になっているので
小さい頃から聞かせればイメージがわくようになる。
そして、お話から言葉を憶える。そして憶えた言葉で話す。そして、憶えた言葉でものを考える。

藤本先生は太田大八さんのこの絵本の挿絵を絶賛です。スライドで見せてくださったのですが
たろう、じろう、さぶろうの登場場面が徐々に明るくなっていることや、
最終ページの親子4人の幸せそうな絵とか、裏表紙の小物の刀と欠け椀とか…。
藤本先生が審査員でもある、アンデルセン賞のノミネートにも上がっていることを教えてもくださいました。

昔話はほんとうにたくさんあるが本当にいいものは少ない。
グリム童話の白雪姫は3回死んでいる。
シンデレラは3回お城に行っている。
やまなしもぎも3回のくりかえし。
その3回を1回にしてしまうのはたいせつなことがなくなる。
昔話にはいろいろな思いが入っている。
・どんなにあせっていても困った人には親切にする。
・アドバイスを聞いたらその通りにする。
・若い人は年長者のアドバイスをきいてこそ成功する。
・よくばらない。
人生には大事なことがあると教えている。

「中学生であっても読んでもらうほうがお話は心に入る」ともおっしゃっていました。

昔話と言えば小澤俊夫さんと言われていますが、あの小澤征爾さんのお兄様だなんて知りませんでした。
そして、藤本先生はその小澤俊夫さんに5年間も昔話を習われたそうです。
私の中の野次馬根性が少し満たされた情報です。

スライドを使って、私の大好きな「こびととくつや」、「漁師とおかみさん」、「おじちゃんとライカ」
「おんぶはこりごり」「シェイプ・ゲーム」など紹介してくださいました。

藤本先生の奥様の朝読書のボランティアのお話は夫唱婦随で、素晴らしいと思いました。
小学校に週3回行かれているようで、読み聞かせ後には30分の検討会を持ちクラスごとのリストを作っているそうです。
お話の中にもでてきたように、子どもの読書のためには、時間をさく大人の力が必要なんでしょう。
ご夫婦そろって実践なさっていることには頭が下がります。

今回の講演会では、本が楽しいことを語りたかった、とおっしゃっていましたが、十分お母様方にも伝わったと思います。
子どもが聴くことを身につけるにも、本に出会うことの楽しみを得るにも、大人は心して関わっていかなければないのです。
それは、子どもばかりか、ひいては大人自身も人生を豊かにしていくことになるのではないでしょうか?
そんなことを再認識させていただいた講演会だったと思います。

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