斉藤惇夫    


ガンバとカワウソの冒険


現在、子どもたちが求めているもの

※参考資料:斉藤惇夫さんのリスト(2005.4.11)

第12回 子ども読書推進講演会
   演題 「子ども・メディア・物語」  2005年12月10日より

 お嫌いなんですね、やはり
噂には聞いて知っておりましたが、本人の口からお聞きするとやはりドキッとします。
「気をつけよう、暗い夜道とボランティア。」
会場のザワザワをものともせず、お話を続けられるのはさすがです。

講演会が終わって知り合いのお母様方と話しましたが、みなさん笑っておられる。
こちらも、さすが。
斉藤惇夫さんの講演会を聞きに来るぐらいの勉強熱心な方たちです。斉藤さんのブラック・ジョークもなんのその。

 この講演会は、「こども読書推進講演会」の中の講演ということです。
演題は「子ども・メディア・物語」
斉藤さんの辛口トークを差し引いても、子どもたちの今の状況は抜き差しならないところにきているのが分かりました。
メディア問題は、脇明子さんもかなり危惧なさっていましたが、今回の方がよりストレート。
会場の空気が凍りました。

近頃の事件との関連性や、ゲーム脳、そして日本がとくにメディアと子どもの関係は野放し状態だということを、
実例も交えての話には背筋が寒くなりました。
 ニューヨークで、幼稚園を立ち上げた斉藤さんのお知り合いの先生の、直面している話には言葉を無くします。
相談の電話が年々その先生のところにかかってくる。
「うちの幼稚園にもキレる子が出始めてきました。」「うちも…」「うちも…」そして最後にこう言うのだそうです。
「日本人の子どもだけ…」
えっ?
文化や言語のちがいからくるストレスなら、他のアジア圏の子どもやヨーロッパの子どもにでても良さそうですが、何故か、日本人の子どもだけなのだそうです。
このことは、そのまま今の日本の子どもたちにも当てはまると斉藤さん。
物騒な世の中、ますます子どもを外に出して遊ばせてあげることができなくなり、必然的にメディアへ。
日本人はメディアは野放し状態。
各国がメディアから子どもを守る体制を取る中、日本の親だけが無知。
そうして育ってきている子どもたち。
どう育つかは推して知るべしと。

国連の「子どもの権利委員会」とは、ほんとうに盾になって子どものことを守っているところだが、その会が
日本の子どもたちの今の状況に危惧し、日本政府に関して1998年に「勧告」してきた。
そして、去年「再勧告」。
これは、由々しきことなんだそうです。

大反省の後、子どもの成長や親との関係を一から考える時に、斉藤さんが言われるように、読書というのは良いきっかけになり、救われそうな気がしました。

1,はじめに「子守歌」と「わらべうた」ありき。
抱擁と笑顔と語りかけを赤ちゃんのころから、たっぷりと。
参考資料「日本のわらべうた」(近藤信子 福音館書店)
「詩ってなんだろう」(谷川俊太郎 筑摩書房)「幼いこどもの文学」(?田貞二 中公新書)

2,子どもが本好きになるか否かは、絵本の中で味わった楽しみの量によります。
質問、説明や解説、お説教、感想、みないらない。
参考資料「絵本論」(瀬田貞二 福音館)「子どもの図書館」(石井桃子 岩波新書)「子どもたちと絵本」(長谷川摂子 福音館書店)
「絵本はともだち」(中村柾子 福音館書店)「絵本・子ども・おとな」(中川季枝子 大和書房)「センダックの絵本論」(岩波書店 脇明子他)

3,子どもたちがうれしくって楽しくなってしまう絵本を読んでやってください。
後付をチェックし、三代子どもたちによって愛され守られてきたものを。
参考資料「私たちの選んだ子どもの本」(東京こども図書館) 石井桃子集(5~7 岩波書店)「本・こども・おとな」(ポール・アザール 紀伊国屋)
「児童文学論」(スミス 岩波書店)

4、絵本の読み方に技術はいりません。心を込めて読んでやればそれで十分です。
下手に、声色をつかわない。
参考資料 「クシュラの奇跡」(ドロシー・バトラー のら書房)「おはなしのろうそく」(東京子ども図書館)

5,昔話は物語の宝庫、人間の心をとく鍵。
「行って帰ってくる」のが昔話の世界。
参考書「昔話のコスモロジー」(小澤俊夫 講談社学術文庫)「昔話の話法」(小澤俊夫 福音館書店)

6,決めては選書にあること。
斉藤さんが一番繰り返しおっしゃっていること。
浜松図書館のリストは全国一、参考にしてください。

7,児童文学の古典といわれるものを沢山読んでください。
絵本の延長線上には児童文学がある。

8,音楽を聴き、絵を楽しみ、本を読み、まず自分自身を磨くことから!
子どもに負けず学び続けなければ、素晴らしさは伝えられない。

9,公共図書館員との友情を深めてください。
分からないことがあれば、何でも、何度でも質問を!!

10,自分の心の中にまず100冊の子どもの本の図書館(リスト)を作ってください。


講演会は30分近く、過ぎたのですが「伝えることは、伝える」という斉藤さんの誠実さと熱意を感じました。
そして、斉藤さんの本や講演会から感じるのは、子どもたちへの真摯な態度です。
それが相食んして、冒頭の「気をつけよう…」なんて発言に至ってしまうのでしょう。

でも、先々月、こんなことがありました。
浜松学院大学の講義を聴く機会が幸運にもありました。
最後に、学生でもないのですが、怖ず怖ずと斉藤さんの著書「ガンバとカワウソの冒険」を差し出し
身元を明かしました。「今、図書館の読み聞かせのボランティア養成講座に通ってます。」と。
「ボランティアよ、立ち去れ!」とは言いませんでした。
斉藤さんは、ニッコリ微笑まれ、この言葉を記して下さいました。
「静かにゆくものは遠くにゆく」日本語とラテン語で書いてくださいました。

含みをもった言葉だとは思いましたが、その時は斉藤さんと話せたことで浮かれてしまいこの言葉の真意まで聞くことをしませんでした。

後に「釈迦」が弟子に与えた言葉ということを、知りました。
そして、ボランティア嫌いなことも知り愕然としましたが、この言葉をくださったということは、私にというよりもボランティアの活動をなさっている方々へ のエール?
と、深読みしています。
最後に斉藤さんがつくられたリストの説明がありました。

これを、全部読んでいなければボランティアの資格はない、とまで言い切っておられました。
「生半可な気持ちで子どもたちの前に立つな。」と言うことでしょう。

数日前に「ガンバとカワウソの冒険」を読み終えました。
ほんとうに引き込まれてしまい、500ページはあっという間でした。
始めは、動物が主人公なので、内心期待していない部分もあったのですが、そう思った自分を今は恥ています。
人間が主人公でなくとも、困難に立ち向かう強さや、仲間を思う優しい気持ち、そして心の葛藤、しっかり書かれています。
斉藤さんのお人柄が、雄ではなく雌のナギサやカワモに反映されているのを感じました。
これはそのまま、斉藤さんの母への思いなのでは?
母イコール女性。ナギサもカワモも強い女性です。
ボランティアの女性を叱咤激励なさるのも、女性を心の奥では強いものと信じているからなのではないでしょうか?

子どもは無垢です。
斉藤さんのように、真摯に相対していかなければ、子どもの前に立つ資格はありません。
来年の目標は、このリストの読破です。
「静かにゆくものは遠くにゆく」
どこまで、遠くにいけるのでしょう。

※参考資料:斉藤惇夫さんのリスト(2005.4.11)

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