読み聞かせ 
 読み聞かせボランティア養成講座 第3回 2005年9月28日

「昔話絵本は「語り」を忠実に再現していること。」

今回の趣旨はこれです!

しばしカナダへ

今日も最前列にOさん。
養成講座も楽しいのですが、Oさんとお話するのも楽しい。
昔話といえば、暗闇ですよね~。
ろうそくかなんかで雰囲気だして、ストーリーテリングいいですね。
なんて言うと、
お嬢さんご夫婦がカナダのバンクーバーにいらっしゃっるそうで、
去年クリスマスに行かれて、その時みたキャンドルの美しさを話してくださいました。
私の心は、しばしカナダへ。


絵本の選び方 ー昔話絵本ー

今日の講師は北図書館の高瀬さんです。

生まれすぐに聴く「こもり歌」や、「わらべ歌」というのが人間最初の文学体験。
これはとても重要なので、後半、実習も有り。
もう一つ、本がなかった時代の大切な文学体験というのが「昔話」
昼間、畑しごとなどで忙しかった大人たちも
その分夜は、幸いテレビがないので、「昔話」を語った。

「昔話」は子ども向けばかりではなかった。
思春期の子にも、老人にも…大人も「昔話」は楽しみの一つであった。
この講座では子ども向きの「昔話」を対象にする。


1、昔話を子どもに語る意義

昔話はこどもの心の深いところに強く働きかけて、子どもが無意識のうちに抱いてる不安を和らげ、勇気づけて、人生に立ち向かう心構えを与える。
昔話は子どもの心の成長の上でなくてはならないものである。

*「昔話」とは口から口への文学。紙に書き記しての文学ではない。

やがて、聞き手が語り手になり、語り継がれる。

*どの国家、民族にも必ずとても似た話がある。

日本ー「だいくとおにろく」
イギリスー「トム・ティット・トット」
ドイツー「ルンペルシュティルツヒェン」

遠くは離れた国とか、違う民族なのに、似た話が存在するということは、人間が生きて行く上で、とても大切なことが、込められているのではないだろうか。


*20年前の図書館での「読み聞かせ」は、5,6才も小学校の上級生もまとめてしかできなかった。
選書にたいへん苦労した。
ところが、5,6 才だろうが、小学生だろうがよく聞いてくれ、手応えを感じるのが「昔話」だった。
だから、プログラムにこまったら、「昔話」。
どうしてだろうか?と高瀬さんも思ったのだそうです。
それに答えてくれたのはいろいろな研究者だったそうです。

・「民俗学」 現実の生活と「お話」のつながりを研究する学問。(柳田国男)
・「文学」
・「心理学」 子どもの成長と昔話のかかわり(ブルーノ・ベッテルハイム)

重度の情緒障害の子どもの治療にお話が効果があることを発見。
精神分析学の知識に基づいて昔話の研究をするようになった。
昔話には現実的な創作話にはない大きな価値がある。
それは、子どものふか~い所(深層心理)に働きかける。

一つ一つのお話の中には、子どもが無意識のところで抱いてる不安を和らげ勇気づける。
人生に立ち向かっていく心構えを与えてくれる。そういう、魔力が備わっている。

・「ももたろう」
昔話なので、内容はいろいろ変わる。
ももたろうの持ちかえるのが、「宝」だけだったり「お姫様」だけだったり
ももたろうのキャラクターがぐうたらだったり…

専門用語で「類話」という。

ベッテルハイムは、この話が持っている、魔力、メッセージは何かというと2つあると言っている。

・子どもへのメッセージ

「今は、大人に守られているけれど、いずれ大人の手を借りずに、困難に立ち向かわなければならない。
困難というのは必ずやってくる。けれども、あなたはいろいろな人の手を借りて、その困難をのりこえられる。
うまくやれるから。幸せになれるから。
だから、その時がきたら恐れずにあなたも、世の中に出て行くんですよ。」

・育てる側、大人へのメッセージ
「どんなにかわいい我が子で、手元におきたいと思っても、必ず自立する。
自分から世の中に出て行きます、と言う時が必ずくる。
その時がきたら、子どもの気持ちを尊重する。
それまで、親が出来ることは、たっぷり愛情もって育てること。
かけた愛情によって、世の中に出て行った時の力になる。」

きび団子というのは、親の愛情の象徴である。

・いちいちこのメッセージを説明してしまうと台無し、昔話も魔力は消え失せてしまう。

・「ももたろう」ばかりでなく他の昔話も次の時代を担う子どもたちに人生を教えている。


2、(文学的な立場からの研究)昔話の特質について

昔話には、口で語られ耳で聞かれてきたために生まれた特質がある。

・耳で聞いた時に心地よい言葉にすでに洗練されている。
・すぐ同化できる形になっている。
・独特の「語り」スタイルになっている。

これらを研究している文学者たちがいる。スイスーマックス・リューティー、日本ー小澤俊夫

・数百年、時を経ても変わらない昔話というジャンルの文体がある。

他の創作と区別する、一緒くたにしてはいけない。

これらのことを研究している本を読んでください。
ここ数年は読みやすい本がでています。 
何年も勉強しないと分からない面白さがある!

・大人が目で読むと変。
そんなうまいこと有る分けない。つじつまがあってない。主人公が学ばない。

(1)はっきりとしたストーリー展開で、「出来事」だけで筋が語られる。

細かい心理描写や情景描写はせず、結末に向かって一直線にお話しが進んでいく。

何故?・細かく描写すると小さい子は分からなくなる。

(2)極端に語る。

物事を極端に語ることで、イメージがしやすく、お話の持つメッセージが伝わりやすくなる。

貧乏ー食べるものがないほど
小さいーマメツブのように
美しいー5000倍も美しい

(3)繰り返しが主に3回、同じ場面は同じ言葉で語る。

「未知への好奇心」「既知のものとの再会の喜び」「推測する楽しみ」を満足させてくれる。

・白雪姫も、そう。胸ヒモ、くし、毒りんごで殺されかける。
・再話者が読んで3回もいらないだろうと削ってしまうと別モノになる。
子どもは初めての話というのは、未知の世界なのでドキドキ。
そこで、同じフレーズでほっとする。

大人の結婚式場と同じ。初めての結婚式場にドキドキ。
仲いいわけじゃなくても、知ってる顔を見つけるとホッとする、それと同じ。

子どもは3回目も同じかなと推測する。これが大事。
すでに獲得したことを推測するということは、科学的な考え方の第一歩と言われている。

・再話者が、「太郎も次郎も同じでした。」などと言ってはならない。
「同じ」と言うことですませてはならない。語る人が言ってはならない。
聞き手が同じと感じるのが大事。

(4)場面を写実的に描写しない。

例えば、一見残酷に見える場面でも、その行為の生々しさを描くことなく、ストーリーを先へ先へと進めて行く。

・昔話は死んだり、殺されたり、手とか足とか首とかを取ったりりする。
人生経験豊かな大人が聞くと、なんてことをと思ってしまうが、
そんな場面でも昔話では具体的には描写しない。それは、昔話のとても大事な特質。
おおかみは赤ずきんちゃんを食べてしまいました。さらりと言い、もう次の場面に展開していく。
あかずきんちゃんは苦しみのあまり、のたうち回りました、などとは絶対に言わない。
子どもは、「あっ、あかずきんちゃん食べられちゃった。」とは思うけれど、
赤ずきんちゃん、苦しいだろうな~とか思わない。
けっして、その場にとどまって、生々しい想像をさせない。子どもが残酷と感じないようになっている。

(5)主人公はあらゆる困難を乗り越えて幸福になる。

こどもは主人公が幸福な結末を迎えるお話を繰り返し体験することで、現実の困難を乗り越える力を養うことができる。
・空想と現実の敷居がない「つ」のつく時代は、すぐ主人公と同化してしまうため、お話は慎重に選ぶ。
・主人公の幸福に向かって一直線。
 ももたろうパターン、ハッピーエンド!
 どんなことがあっても大丈夫。
 昔話はまさにその通り。

※中には子ども向けでない昔話があるので、昔話絵本を選ぶ時、これらの特質にはずれていないかどうか確認する。


3、再話について

昔から伝わってきたお話がきちんと活字になったもの(忠実に再話された本)を選んでこそ、
昔話の持っている力が確実に子どもたちに伝わる。

・昔話とは耳で聴く文学なので非常に洗練されているので、お話の主人公にすぐ同化できる。

しかも、その中には人生で生き抜いていくためのメッセージが込められていて、子どもは深いところでそれを受け止める。
そういう話が昔話。
これは、昔の子どもたちだけではなく、今の子どもたちにも、ぜひ聞かせたい。
ほんとうだったら、昔のように子どもの目をみて語りで聞かせたいのだが、伝承の語り手はもういない。
本を読むことでしか出会えない。
しかし、昔からの伝承の話を再現しているのは少ない。

知識として子どもにお話をしてあげるのであれば、どんなものでもいいが、伝承の良さを子どもの深いところで感じてもらいたいと思うのであれば選書は大事!


「三びきのこぶた」瀬田貞二/フェリクス・ホフマン
あの、2匹のぶたが食べられてしまう正統派の物語と小学館から出ている回転台の「さんびきのこぶた」の読み比べをしました。

かたや、ぶた2匹は食べられるは、オオカミは食べるはで残酷。
もう一冊は、皆さんご存知のわら家のぶたが木の家に逃げて、またまた2匹でレンガの家に逃げ込むというもの。

でも、「つ」のつく子どもにはやはり瀬田さんの方の話ですね。
「悪」は自分でほろぼす!幸福はつかみ取っていくものです。

ここまでやらなくても…
ここまでやるから伝わるのです!
けっして、場面はとどまっていないし、安心感は前者です。

有名な話なのだそうですが、逃げたオオカミの話で育てると
「あの、しげみの中にいない?」と不安だけがいつまでも残ってしまって、おびえるんだそうです。

「罪を憎んで人を憎まず」の話は、たしかに創作の方ではあるが
「つ」の子どもたちは特に、悪は滅びる方を!
そうはいっても、ゆるしましょというのは、子どもに基本的な根っこの部分が伝わってから。

・アンデルセンー創作
グリムー昔話を再話したもの、集めたもの。

テレビのクイズ番組で、
「白雪姫は誰が書いたか」(1)アンデルセン(2)グリム 答えは(2)になっていたが、ちがう。
もともとあった話をグリムが文章におこしただけで、創ったわけではない。

アンデルセンの「人魚姫」では、
人間の王子に恋をした人魚姫は、声の代わりに足を得るが、歩くたびに痛む。
「とがったキリとするどいナイフをふんでいるようだった」
など、痛みの描写が聞き手に強く伝わるように、何回も何回も書いてある。
昔話では、痛みを聞き手に感じさせるようなことは絶対にない。ありえない。
場面を写実的に描写しないことによって、
聞いている子どもたちに行為の生々しさを想像させず、
残酷だなと立ち止まることをせずに

とにかく、先へ先へ先へと進んでいくつくりになっている。
「七匹の子やぎ」「赤ずきん」も、食べられた苦しみや痛みを感じさせる書き方はしていない。
苦しみ、のたうちまわっていたら、ポコッと赤ずきんが出てきた時に、違和感を感じるでしょう。

聞き手は、食べられた時点で赤ずきんのことなんか、すっかり忘れてしまう。
「うまかたやまんば」も
「魚を置いてけ、さもなくばお前を食べてしまうぞ」魚を投げる。
「馬を置いてけ、さもなくばお前を食べてしまうぞ」と言われ、馬の足を1本ぶった切って、
機能、性能失うことなく3本足の馬に乗って逃げる。
ここで、子どもはワッとおもしろがる。馬かわいそうなんて言う子は一人もいません。

これが昔話の特質。

・死んだり殺したりぶった切ったり
そんなのをやはり子どもに見せたくないから、優しく書き換えたものをあえて選ぶという方は、ご自分のお子さんにはそうして下さい。

でも、たくさんの子どもの前での「読み聞かせ」の時は、本来の再話のものを!
最初に、やさしいものを聞いた子は後から、本来の再話を聞くと「これ、ちがう!」と思い、
最初からお話のおもしろさに入れない、ということになりかねない。

4、絵について

おはなしを育んだ風土を伝えている質の良い絵によって、子どもはそのおはなしをより豊かにイメージできる。

・どんなに再話がよくても、絵がだめなら台無し。
・「三びきのこぶた」イギリス民話 訳:瀬田貞二、絵:山田三郎

昔話の根本には、人生の厳しさが語られている。
本来の昔話「三匹のこぶた」は
貧乏で生活ができなくて、うちを出て行かなければならない。
絶対に戻れないという状況から始まる。
やさしい方は、大きくなったので、出て行く。
本来の話の自然界の厳しさを表さなければならない。

絵を書いた山田三郎さんのエピソード
この絵本を描いた時は、ちょうど入院していてそこから見える豚をたんねんにスケッチした。
だから、非常にリアル。でも、家を建てていても洋服を着ていても違和感のない絵。

もう一冊は、眉毛、まつ毛があり、目ぱっちり、典型的な鼻。
子どもでも描くステレオタイプのぶた。

これは、画家、出版社、編集者の姿勢。


・「ねむり姫」グリム童話 絵:ホフマン
表紙の絵 暗い地味な感じだが
王が幼い姫の行く末を案じているのが、顔や組んだ手で分かる。
背景に深い緑をつかい鳥の黒が、これからの話を予感させる。
お話にぴったりの絵。
ホフマンは、ドイツの森を歩いて、城などをスケッチして描いている。

ディズニーの「ねむりのもりの美女」
・功罪といえるもの
再話もまるっきり別もの
絵もホフマンなどと比べると…
映像としての価値はあるが、絵本としたら、絵も再話の点でも劣る。

・再話の絵とは
お話の雰囲気を伝えているか。
聞き手が耳だけで聞いた時のイメージが損なっていないか。

米 絵にできない話もある。
「白雪姫」
お話を絵本にしてしまうと、違和感があったり、つまらなくなってしまうものがいっぱいある。
イメージが固定化されてしまう絵。

・絵にすると残酷になる場合もある。
「カチカチ山」赤羽末吉 たぬきがばばにきねを振り上げたシーンで止まっている。
ばばを調理していない。
次のページには、婆の着物を着たたぬき。

比較の絵本は、松谷みよこ再話。
こちらの方は、絵本に冊子まで付けて婆汁が残酷なので描くのをやめたと言っているのにもかかわらず、2ページにわたって、ばばが打ち殺されて血を流しているところを描く。(ウ~、エグい)
せっかく、婆汁が気になって省いたくせに、絵で描いてしまっている。
高須さんも「この絵本は失敗ですね。」と。
昔話の特質をふまえて絵にしているかが大事。
再話の方は大丈夫であっても「絵」で失敗している場合がある。

米 再話は、大丈夫か?
    ↓
再話のいい部分に絵をつけているか? チェックする。

・「絵」があるから楽しめるという成功した本
「三びきのヤギのガラガラドン」
「おおきなかぶ」

・では、なぜ「絵」があったほうがいいか。
「その話を育んできた背景、風景、風土、それが伝わるのは絵があるから」
日本だったり、イギリスであったり、ヨーロッパであったり…
お話のよさを損なってしまうかもしれないけれど、あえて絵本にする意味はここにある。

「かさじぞう」 赤羽末吉
「日本よもやま話」で、この話を描く時に、日本はしめりの文化、そして寒い地方の話なので墨絵をつかったそう。

「てぶくろ」ラチョフ
おじいさんの手袋の中にいろんな動物が入っていく。頭の中では想像できても、「絵」は難しいけれど成功している。

「おおきなかぶ」
ロシアの広大さを表すために、あえて人物以外は白い余白にしている。
かぶの大きさを表すために、全体を描かない、「たちおとし」の技法を使っている。

良くない絵本、アメリカンポップの「あかずきんちゃん」湯村タラ
英語圏の話ではないのに話を曲げている。
これでは、文化を育んできた背景が伝わらない。
国籍が分からないのはダメ!

5、文について

わかりやすく簡潔に書かれた文であるか、方言をつかっている場合はお話の雰囲気を損なわないものか、確かめる。また、絵が先走りしていないか、絵に対して文が長すぎないか、絵と文のバランスも見る。

・文についても国籍不明はダメ!
イギリス民話のある一冊
絵も別に問題ない、再話も省略していないが…
「こぶたの用意はいいケ」
「うん、いいとも。もう取ってきたデ。なべにはかぶがいっぱいダニ」

たぶん、再話者が昔話だからイギリスだって方言を使っているはずと思ってこういう口語にした。
子どもは方言の面白さで笑うかもしれないが、お話本来の面白さから離れてしまう。

・昔話だからといって、方言でやらなくてもいい。
ほんとうに、東北の方言なんかでやられると、私たちには意味不明。
お話本来の面白さが伝わるのであれば、共通語のほうがいい。

・「日本の昔話」全5巻 小澤俊夫 今から10年前の本。
方言にしたためにお話の面白さが伝わらず、それでお話が消えていってしまうことに
危機感を感じて、あえて、共通語で昔話を、ということが書いてある。
高瀬さんは、この本が出てくれて、ほんとうに良かったと言っている。

子ども達も読み手も、方言に気を使うことなくお話を楽しめる。
方言が悪いわけでなく
そのお話が培われてきた場の雰囲気を損なわない文章にしてもらいたい。
それが出来ないのであれば、
きちんとした、正しい共通語。

6、グレードについて

子どものグレードについて

・基本的には昔話は、スジが追えるようになってから。
3歳未満には「大きなかぶ」ぐらい。

まとめ

伝承の昔話を損なわない形のものを選んで与える。
再話

バランスのチェック。
そして生の声で。

次の世代に昔話を残していく手助けをしてください。


第2回の講義を終えて

「むかしばなし」
とても、興味があるテーマだったので楽しみでした。
想像通り、奥が深い!
高瀬さんが言われたように10年勉強しても、まだ先があるジャンル。
今、スタートラインに立ったような気持ちです。
これから、少しずつ学んでいこうと、また気持ちを新たにすることが出来ました。
昔話のキーワードは「エグさ」じゃないでしょうか?

来週の講座は、「科学の本」です。

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