中川李枝子

絵本と私

「歩こう 歩こう」


絵本と私



となりのトトロ

「今、トトロを上映中の映画館では、日本全国どこへいっても、フィルムが回り出すと途端に客席が 『歩こう 歩こう』の大合唱になるそうですよ。
子どもたちがいっせいにうたうんですって。こんなことは映画史上初めてです。」
宮崎さんは「トトロ」の構想を20年以上も温めていたそうです。
それが実現にこぎつけたとき、私に歌を作ってほしいとお声がかかりました。
映画を離れても、子どもたちがうたうような歌という注文で、「歩こう 歩こう」ではじまる「さんぽ」の詩は出来ました。
作曲は久石譲さんです。
となりのトトロ」は封切りと同時に大評判になり、今も多くの人びとに愛されています。
外で「歩こう 歩こう」と鼻歌まじりにうたう小さい子に会うと、私はすごくうれしくなります。

「絵を描く幸せ」


ミスカーターといつもいっしょに

私が今、もし、あの子たちのように思う存分に絵をかけたら、どんなに楽しくて気持ちが清清いするでしょうか。
私だって子どものころはよく絵を描いていました。
悲しいいかな大人になるにつれ、上手、下手ばかりに気にして手が全然うごかなくなってしまいました。
ヘレン・ブラッドレイさんが60歳でお孫さんのために描き始めた絵本 『ミスカーターといつもいっしょに』のすばらしい出来ばえに、 ただもう目丸くして感嘆するばかりです。
自分の生まれ育った小さい町の暮らしと風景を、これほどまでに描けるとは、 ああ、なんと幸せなブラッドレイさんでしょう。

「帽子を100持っている子」


イエペはぼうしがだいすき

帽子といえば断然イエペでしょう。
デンマークの三つの坊やが主人公の『イエペはぼうしがだいすき』は、読む人の心に幸福を運んでくれるような絵本です。
イエペは帽子を100も持っているんですって。
そしてお気に入りは茶色のソフト帽。
これをかぶると、イエペの目は輝き、表情がいっそう生き生きするから不思議です。
私はこの絵本をもう100ぺんは見たでしょうか。見るたびに「帽子ってほんとうにいいな」と思います。

「親のかがみ ダンカン夫妻」


ロバのシルベスターとまほうのこいし

絵本『ロバのシルベスターとまほうのこいし』は、あふれるばかりの親子の情愛を描いた大傑作です。
若くて血気盛りのお母さんたちの集まりに持っていって私が読むと、みんなホロリとし反省するそうです。

「恐竜から人間へ」


せいめいのれきし

この絵本を保育園で初めて読んだ時、子どもたちは幕開けから真剣に見入り、 幕がおりてもしばらくは感動で身動きしませんでした。
その子どもの姿に私は圧倒され、以来『せいめいのれきし』に畏敬の念を抱いています。

「こわいもの見たさで」


へびのクリクター

こわいもの見たさで興味をそそる蛇
物語や絵本に登場すると、 これほど想像をかき立てる面白い生き物はいないと感心します。
へびのクリクター

「おんぼろでしわくちゃでひげ面」


ふるやのもり

まだ字の読めないその子の頭には、田島征三さんの独特の泥んこをこねたような絵の印象が 「きたない」と刷り込まれたのでしょう。
数ある日本の昔話のなかでも群を抜いて面白おかしい『ふるやのもり』を田島さんには悪いと知りつつ、 いま、私もひそかに「きたない絵本」と呼んでいます。
そして、汗まみれ泥まみれで元気いっぱい遊んでいた、 とてもとても「きたない」いたずらっ子のわんぱく坊主たちを懐かしんでいます。

「絵本の道案内」


もりのなか

新米保母だったころ、何でもないようなお話の絵本なのに、小さい子たちは目をまん丸くして、身も心も引き込まれてしまう ということがよくありました。
そこでどうしてかしらと読み返してみると、なるほど、子どもはここがおかしくて笑ったんだ、ここにスリルがあったのか、 ここで心がはずんだのかーと私も気がつき、ああ、子どもの感性にはかなわないと脱帽しました。
その時私が絵本の世界の入り口に立っていたとすれば、子どもたちほうは、一歩も二歩もなかに入っていたのです。
そしていつのまにか私の手を引っ張って、絵本の世界の楽しみ方を教えてくれていました。
もりのなか

「魂がゆさぶられる」

どうして子どもは絵本が好きなのかー理由ははっきりいえないけれど、きっと魂をゆさぶられるからだと、このすばらしい 芸術家たちの作品にふれて思いました。
大人でも子どもでも魂をゆさぶられるのは、本当にいい気持ちがしてうれしいものなのです。

「はるかな揚子江」


あひるのピンのぼうけん

関西の図書館で、アメリカ帰りの図書館員が英語の原書を日本語に訳しながら読んだら子どもたちは大喜び、 以来ピンの人気は上がりっぱなしで、何年もの間、親しまれてきました。
そこでついに、今回の翻訳・出版となったそうです。1933年生まれの絵本です。
あひるのピンのぼうけん

「読むほど好きになる」


あおい目のこねこ

そのうち「へ~んなねこ」と言いながらも青い目に好感を抱き、 このちょっと風変わりな絵本は完全に人気の1冊となりました。
よい絵本なら、子どもは最初から大喜びするーというものでもなさそうです。
あおい目のこねこ

かわいくない子に、だれが絵本を読んでやるでしょうか。